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EU AI規制法が日本の医療機器産業に与える影響と必要な対策

Posted by TUV Rheinland Japan on 2024/06/18 12:21:44
TUV Rheinland Japan

世界初のAI規制であるEU AI規制法は、2024年8月1日に正式に施行されました。(詳しくはこちらのブログ記事をご覧ください)。本ブログでは、欧州AI法が日本の医療機器産業に与える影響について考察し、すでに確立されているEU MDR/IVDRの枠組みの中で、規制遵守と戦略的適応のために必要な措置を概説します。


 

 

テュフ ラインランドは、医療業界の関係者がこの規制への移行に効果的に対応し、

革新的な医療用AIソリューションのEU市場参入を促進する明確な指針を提供することを目指しています。

 

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EU AI規制法が目指すもの

この新規制法は、産業界全体でAI技術の安全性と信頼性を確保し、透明性を高め、将来的にEU市場に投入される信頼性の高いAIシステムの一般的な枠組みを定めることを目的としています。リスクベースのアプローチ、事業者に課される義務、違反者に対する罰則の可能性が取り入れられています。

 

なぜこの規制法が重要なのか?

EU AI規制法は先駆的な規制の枠組みとして、AI規制に世界的に影響を与えうる先例となります。医療機器分野で事業を展開する日本企業にとって、この法律を理解し遵守することは、EU市場へのアクセスと競争力を維持する上で極めて重要です。

 

 

EU AI規制法の概要

 

EU AI規制法はいくつかの重要な規定を導入しています。

  • AIの定義:新規制法はAIシステムを広範に定義しており、その範囲を特定の技術やその応用に限定せず、包括的にカバーすることに重点を置いています。
  • リスクベースの分類:AIシステムは、以下の4つにリスク分類され、それぞれのリスク分類ごとに特定の規制や要求事項が定められます:
    許容できないリスク(unacceptable risk)、高いリスク(high risk)、限定的なリスク(limited risk)、最小限のリスク(minimal risk)
  • 高いリスクのAIシステム:重要インフラ、教育、雇用、法執行などで使用されるような高いリスクのAIシステムや、AIを利用した大規模な医療機器などは、リスクマネジメント、データガバナンス、透明性、人的監視に関して厳格な要求事項を満たさなければならなりません。
  • 透明性:新規制法は、エンドユーザーがAIシステムを運用する上での限界とリスクを理解できるよう、事業者が明解な情報を提供することを要求しています。
  • データと記録の維持:説明責任とトレーサビリティを確実にするために、AIシステムのデータ、学習方法、運用プロセスの詳細な記録を維持することが求められます。
  • 人的監視:人の介入と監視を許可し、AIの決定をレビューし、必要に応じて修正できることを確実にすることが求められます。
  • 市場監視とコンプライアンス:  規制遵守を確実にするため、各国の監督当局やEU AIオフィスの設立など、市場監視の枠組みが確立されます。
  • ノーティファイド・ボディによる適合性評価:高いリスクのAIシステムは、EU MDR/IVDRのような他の規制法と同様に、認定されたノーティファイド・ボディによる新規制法の枠組みに基づく適合性評価が要求されます。

 

「AIシステム」の定義

 

新規制法は、「AIシステム」を次のように定義しています。

さまざまな自律化レベルで動作するように設計され、配備後にも適応性を示す可能性があり、明示的または暗黙的な目的のために、受け取った入力から、物理的または仮想的な環境に影響を与えることができる出力、例えば予測、コンテンツ、推奨、決定など、をどのように生成するかを推論する機械ベースのシステム

 

この定義は、OECDが提示した定義1に由来するもので、特定の技術やAIの適用範囲を限定するものではありません。まだ発明されていないアルゴリズムや技術が今後さらに登場することを想定し、広範囲にカバーすることを目的としています。

1: https://oecd.ai/en/ai-principles(ページ最下段AI system参照)

 

 

リスクに基づく分類システム

 

新規制法は、潜在的なリスクに基づいてAIアプリケーションを分類しています。

  • 許容できないリスク:使用が禁止されている。市販が許可されていない、あるいは地方自治体が特別に承認した場合にのみ市販が許可される、政府による社会的スコアリングのためのAIシステムなど。
  • 高いリスク:ヘルスケアなど重要な分野におけるAIシステム。厳格な要求事項を満たす必要があり、EU AI規制法またはデバイスの分野別規制に従った適合性評価を受けなければならない。
  • 限定的なリスク:透明性に関する義務を負うAIシステム。
  • 最小限のリスク:自主的な規制適用の対象となる、リスクが最小またはゼロのシステム。

 

高いリスクのAIの応用例

 

新規制法で示された高いリスクのAIに分類される機器には、すでに産業分野固有の規制が適用されている機器も、まだカバーされていない機器も含まれます。いずれにしても高いリスクのアプリケーションは、厳格な適合性評価を受け、厳格なデータガバナンスと透明性の要求事項を遵守しなければなりません。
例えば、現行のEU MDR/ IVDRの対象である医療機器は、AI規制法への適合が必要であることは明白です。例えば、診断ツール、診断支援システム、自動患者モニタリング技術などのAI支援医療機器が含まれます。

EUの幅広い分野別法規で規制されていない機器も、AI規制法の対象となる可能性があります。例えば、重要インフラ(電力網、水供給網、輸送システムを管理するAIシステム)や他のいくつかのアプリケーションが含まれます。

 

 

実施スケジュール

 

新規制法の施行は段階的に予定されており、EU官報掲載日より20日後に施行され、高いリスクのAIシステムに適用されます。

  • EU AI規制法施行から24ヵ月後、他のセクターの法規で規制されていない高いリスクのAIシステムは、AI規制法に準拠しなければなりません。
  • EU AI規制法施行から36ヵ月後、AIA Annex IIに記載されている産業分野別規制法で規制されている機器は、AI規制法に準拠しなければなりません。(例えば、医療機器や体外診断用医薬品など。)

 

 

日本の医療機器産業への影響

 

市場アクセス

 

EU市場に輸出・販売する日本の医療機器メーカーは、EU市場へのアクセスを維持するため、そのAI支援医療機器についてEU AI規制法に準拠することが期待されています。非準拠の場合、新規制法のもとで、参入への大きな障壁となり、競争上の優位性や市場シェアの低下、あるいは重大なペナルティが課される可能性があります。

影響を受ける機器の大半は医療機器プログラム(SaMD)のカテゴリーに含まれると予想されますが、機器に組み込まれたAIも、それが高いリスクのAIの定義に該当する限り、同様に規制の対象となります。

さらに、MDR/IVDRと同様にEU AI規制法は、ソフトウェアとAIシステムが規制の対象範囲内である限り、その場所に関係なく規制することを意図しています。

 

 

EU MDR/IVDR における医療用AIシステムのクラス分類 vs. AI規制法の高いリスク分類

 

AI規制法は高いリスク分類を導入していますが、これはMDR/IVDRに概説されている医療機器クラス分類とは独立した定義であり、製品を上位クラスに分類変更するものではありません。クラス分類は別々に決定され、それぞれの準拠すべき規制の下、個別の適合性評価ルートに従う必要があります。

 

 

適合性評価

 

AI規制法は新法規フレームワーク(NLF: New Legislative Framework)を採用しているため、EU MDR/IVDRと同様の構造とアプローチを適用し、高いリスクのAI支援医療機器の提供者(製造業者)に期待される適合性評価手順も同様です。このような医療機器の主な適合性評価は、EU MDR/IVDRの分野別手続きに従っていますが、医療機器製造業者は、AI特有の側面に対応した技術ファイルを含む詳細な文書を維持しなければなりません。また、製造業者は、ビジランスシステムを維持し、すべての規制への適合を確実にするために、ノーティファイド・ボディによる適合性評価と定期監査を受ける必要があります。

 

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高いリスクのAI機器をEU市場へ

 

高いリスクのAI医療機器をEU市場に出すには、追加の要求事項があります。日本企業はこうした変化に対応し、すべての製品が必要な整合規格に適合していることを確実にし、CEマークを取得しなければなりません。

 

 

製品ライフサイクルに関する考察

 

AI支援医療機器の開発は、まもなくAI規制法に基づく新たな整合規格によって導かれることになり、最先端の取り組みの一つの基準となります。これらの規格は、強固なデータガバナンス、アルゴリズムによる意思決定の透明性、人による監視、AI性能の継続的なモニタリングを重視しています。
医療機器製造業者は、厳格なリスク管理とソフトウェアのライフサイクル規格のおかげで、設計開発におけるリスクベースのアプローチにすでに精通しています。しかし、今後はこれらの原則をAIに具体化して適用し、早期にこれらの新しい規格を受け入れる必要があります。新規制法への移行によって、AI支援医療機器が安全で信頼性が高く、透明性の高いものであることを事業者が確実にすることを目的としています。

 

 

コンプライアンスコスト

 

EU AI規制法への対応は、規制認証、サイバーセキュリティ、データ保護対策、追加監査、継続的なAIシステム監視など、追加のコンプライアンスコストをもたらします。これらは既存のEU MDR/IVDR適合性評価の延長線上にあるものと予想されますが、ノーティファイド・ボディにはAI規制法固有の要求事項に対応する能力が求められます。追加コストはかかるものの、これらの投資は、EU市場へのアクセスを獲得し、競争力を維持するために極めて重要となります。

 

 

中小企業への影響

 

日本の医療機器産業における中小企業は、EU市場参入のためにさらに新たなハードルに遭遇することになります。厳しいMDR/IVDR要件を満たすだけでなく、EU AI規制法の影響を理解し、必要な規制対応予算を組むことが、タイムリーかつ成功裏に市場参入するために極めて重要です。

 

 

 結 論

 

EU AI規制法は、特に医療機器分野におけるAI技術の規制状況に大きな変化をもたらしています。日本企業にとって、これらの新規制を理解し遵守することは、EU市場におけるプレゼンスを維持・拡大する上で極めて重要です。こうした変化に積極的に対応することで、日本の医療機器メーカーは、自社製品が最高水準の安全性と有効性を満たすことを保証し、医療分野における信頼とイノベーションを促進することができるでしょう。

 

 

  関連情報

テュフ ラインランドでは、EU規制や各国の要求事項に対応した評価・認証サービスを提供します。

グローバルに認知されたテュフ ラインランドのサービスを活用いただくことで、貴社製品の品質と安全性に対する信頼性の向上確保することが可能です。

ぜひお問い合わせください。

テュフ ラインランドは、英国医療機器規制2002(SI 2002 No 618、改正後)(UK MDR)に基づく英国承認機関として正式に認定されました。この認定により、医療機器および体外診断用医療機器について、UK MDR 2002の要件に従った認証を行うことができます。

 

ウェブサイト | 欧州医療機器規則 (MDR)2017/745

ウェブサイト | IVDR 体外診断用医療機器規則

グローバルウェブサイト(英語)

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お問い合わせ:カスタマーサービス(TEL: 045-470-1850 E-Mail: info@jpn.tuv.com

更新日 : 8/28/2024 (6/18/2024)

 

Topics: 医療機器, 国際規制情報, tuv.communication, medical devices, 製品安全