水のリスクというと、河川の氾濫、地滑り災害、都市型洪水、高潮などのキーワードが思い浮かぶかもしれません。残念ながら、水の力によって、多くの人が亡くなり、家が損壊し、経済的にも社会的にも大きな影響を受けることがあります。
このコラムでは、私たちがそのような水のリスクを認識し、未然に防ぐためにどのような行動をとればよいかを考えてみたいと思います。近年、日本で起きた水害の事例を紹介します。
- 2021年、温泉の源泉地として知られる神奈川県箱根町の大涌谷で土砂崩れが発生し、温泉供給施設が流され、犠牲者26名を出す。
- 2020年、九州を中心とした大雨により、熊本県で球磨川が氾濫し、犠牲者50名を出す。
- 2019年、 台風19号(東日本台風)により、広い範囲で甚大な被害が発生。合計140ヵ所以上の堤防が決壊し、犠牲者94名を出す。
- 2018年、西日本豪雨で200人以上の犠牲者を出す。
- 2015年、関東・東北豪雨で鬼怒川が決壊し、5,000戸以上の家屋が全壊し犠牲者14名を出す。
これらの事例を振り返った時に、大切なのは「自分の住んでいる地域のリスクを知ること」です。多くの事例では、洪水や浸水、土砂崩れなどが予想される地域で被害が多く発生しています。ハザードマップを確認し、事前に近隣のリスクを把握した上で、早めの避難を心がけることが大事です。なお、2019年の台風19号では、大雨特別警報の解除後に浸水が相次いだように、雨が弱まった後でも水位が上昇することがあるので注意が必要です。すでに浸水が始まっているなど状況が悪化している場合は、できるだけ川や崖から離れた頑丈な建物へ移動するのもひとつの方法です。斜面から離れた自宅の2階以上に移動することで、命拾いするケースもあるようです。
将来の洪水への備えは、もっと重要です。「まさかこんなことになるとは......」という言葉は、水害が起こるたびに繰り返し聞かれる言葉です。自分が被災者になったつもりで、今一度、地域の水害リスクと避難方法を確認してください。自分でできることがあります。
一方、2021年に箱根で発生した土砂災害は、日本政府の行政の弱さが広く問題になりましたが、その対策についても考えてみたいと思います。
県の調査によると、大雨後、流出した土砂の大半は川の上流にあった盛り土であった、盛り土の高さは約50mで、熱海市に報告されていた15mを大きく上回り不適切な状態であった、とされています。
残土が大量に持ち込まれた理由として指摘されているのが、建設廃材の規制の弱さです。静岡県で建設残土の処理を請け負っている業者は、条例に違反すると20万円以下の罰金、懲役になる近隣の県に比べ、県の条例が「緩い」と証言していいます。
崩れた盛り土に含まれていたとみられる建設残土は、近年、全国的に問題視されています。国土交通省によると、建設残土は年間約2億9000万立方メートル発生するとのことです。これは東京ドーム約230杯分に相当し、その8割は臨海部の埋立地に再利用されていますが、残りの土の一部は不適切に処理されています。しかし、建設発生土そのものを規制する国の法律はなく、自治体が独自に条例を制定して不適切な行為に対処しているのが現状です。今回の災害を受け、複数の省庁による会議が発足し、盛り土による被害を防ぐための対策が議論されましたが、建設残土に関する議論はまだ始まっていません。不適切に持ち込まれた建設残土による被害や倒壊事故が全国で発生している中、自治体だけに任せるのではなく、国として新たな対策が求められています。
死者26人を含む甚大な被害の原因は、川の上流域の盛り土であることが明らかになりつつあります。急斜面に産業廃棄物を含む土砂が投棄され、それが大雨で一気に崩れ落ちました。ある面では、「人災」とも言えます。
大雨の後に起こった大規模土砂災害の爪痕は、今もなお大きな禍根を地域のみならずそこに住む人々の心に残しています。この災害も水と深く関連しており、関連する行政との連携が同様の“人災“を起こさない必要条件になっています。
このコラムの最後に、こうした水のリスクと予防にアプローチする「Alliance for Water Stewardship(AWS)スタンダード」を紹介したいと思います。この規格では、ステップ1から5までの要件が定義されており、ステップ1:収集と理解、2:コミットと計画、3:実施、4:評価、5:伝達と開示に言及されています。要求事項で示されているより詳細な内容は、このコラムで示したトピックや議題に対するアプローチに有用であることは間違いありません。
注:ここに記載されている内容は著者の意見であり、Alliance for Water Stewardship(AWS)を代表して発表されたものではありません。著者はAWSプロフェッショナル資格を持っており、この出版物は著者のContinuing Contribution Unitsの要件を満たすのに役立ちます。AWSまたはAWSプロフェッショナル・クレデンシャル・プログラムの詳細については、https://a4ws.org/をご覧下さい。
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有江 博之(ありえ ひろゆき) テュフラインランド ジャパン株式会社 システム部 事業部長、AWS審査員 エンジニアとして長年の食品及び飲料業界での経験を軸にISO認証サービス、プロジェクトマネジメント、サプライチェーン監査を専門に活動。
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お問い合わせ:カスタマーサービス(TEL: 045-470-1850 E-Mail: info@jpn.tuv.com)
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AWS 自然そして人の営みを支える水のサステナビリティ(2022年)【サントリーAWS認証取得実績】
- 「サントリー天然水 奥大山ブナの森工場」にAWS認証を発行(2019年)
- 「サントリー九州熊本工場」にAWS認証を発行(2020年)
- 「サントリー天然水 南アルプス白州工場」にAWS認証を発行(2022年)
【AWS公式ウェブサイト(英語)】https://a4ws.org/
更新日 : 6/2/2022