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機能安全の認証取得のポイントは「受け身」ではなく「積極的な主張」

Posted by TUV Rheinland Japan on 2022/02/21 8:53:43
TUV Rheinland Japan

【連載】安全設計を失敗しないために

テュフ ラインランドは、機能安全技術について40年以上前から研究をはじめ、その成果の多くが現在の規格書に採用されています。この長年の知見をもとに、世界中で数多くの機能安全認証や試験、教育などを実施してきました。

十数年にわたり、認証・評価業務、技術講師、執筆等を務めてきた機能安全認証検査員が、読者の皆さまに「失敗しない安全設計」を実現していただくために、機能安全やサイバーセキュリティの正しい理解や誤解を解くヒントなどをお伝えします。実践的な内容ですので、ぜひ業務にお役立てください。

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以前ある技術雑誌で、ある日本の航空機メーカーが、欧米の認証機関による審査を受けた際のエピソードや審査官とのやり取りについて報告されていました。欧米の審査官からの質問に対しそのメーカーの設計者は、「謎かけのようだ」「問答をしているようだ」と思ったそうです。この記事を読んだ時、「やっぱりそうか」というのがわれわれ審査を実施する側としての率直な感想でした。審査官としては「謎かけ」や「問答」をするつもりはまったくありませんが、設計者側の回答がポイントを外していたり、受け身的な姿勢で回答されるとわれわれは色々な質問を投げかけることになります、それを「謎かけ」や「問答」だと感じてしまっているのだと思います。

実はこの認証審査というものについて、日本のエンジニアの多くは誤解をしていると思っています。審査プロセスがスムーズに進行しない時の根本的原因は、技術的な問題でなく、この審査という行為についての認識が違うことが原因になっていると思います。この問題点を一言で表すと『受け身』というキーワードかと思います。つまり、審査を自分は『受けている』という感覚があまりにも強く、それが守りの態度や受け身の回答内容として現れ、審査官に疑念を抱かせてしまう原因になっています。

複雑な機能安全分野は白黒つかないグラデーション

審査官がいつも注視しているのは、設計者の『積極的な主張』です。規格要求通りか、そうではないかのような単純な話ではありません。なぜなら、機能安全のような複雑な分野では、白黒の明確に分けることができない事柄が山ほどあるからです。こう言うと、ステレオタイプのように「あいまいだ!」という方がいますが、その方は機能安全理論をよく理解していない証拠です。

ある技術要素が安全と言えるかそうではないか、これは製品・アプリケーションごとに違うはずです。そのような技術が山ほどある機能安全の分野では、規格書で無責任かつ単純に合格・不合格とは表現できないのです。つまり、安全と危険の境界線は常に明確な一本の線で区切られるものではなくグラデーションのような領域です。ある複雑な技術要素が安全かあるいは危険な振舞いになるかは、製品・アプリケーションの特質に合わせてその都度良く考えて決定する必要があります。つまりケースバイケース(あいまいとは意味が異なります)ということです。


『受け身』にならず、自信を持って!

審査官がなぜ設計者の『主張』を注視しているか。もしこの理解が出来ていれば分かるはずです。複雑な設計の場合、審査官は設計者がどういった思考・意図でその技術要素を用いたのかを理解する必要があります。それなくしては安全かどうかの技術的判断はできません。それなのに設計者は図面や資料を見せ、表面的で一通りの説明はしても、なぜこの部分が安全と考えられるのかの具体的『主張』をしません。審査官の顔色をうかがって、『受け身』で待っていたら何も進みません。審査官は判断に必要な情報が不足しているため仕方なく質問を浴びせかけることになり、それが「謎かけ」や「問答」と言われてしまうのです。これは設計者と審査官双方にとって大きな時間のロスです。ですので、設計者は出来るだけ受け身にならず、自信を持ってまずは自分の考えを主張するべきなのです。その考えが理にかなっていれば、規格に記載されていないことでも、審査官が受け入れることはよくあることです。もちろんそのためには機能安全の本質理解と規格の知識も必要です。時代と共に設計が複雑化し『主張』が必要とされるケースが増えてきています。とにかく、設計者が『受け身』の姿勢でいると、認証取得はますます難しいものになると言えます。

 

 

執筆:テュフ ラインランド機能安全 認証検査員

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機能安全 IEC 61508についてわかりやすく解説しています。出典:「計測技術」(2016年10月号) 日本工業出版株式会社

機能安全 IEC 61508 について<要求のポイントと認証プロセス>(1/3)
機能安全 IEC 61508 について(2/2)
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更新日 : 02/22/2022

photo by Joshua Jamias on Unsplash

Topics: Functional Safety, tuv.communication, 機能安全