テュフ ラインランド ジャパンのオンラインマガジン「tuv.communication」(2016年9月号)から掲載
第1回 電子ミラーとは?
これからのクルマは、「ミラーレスになる」とか、電子ミラーになるとか言われています。しかし、ミラーレスと言われても、具体的に車の運転の何が変わるのか、よく分からない、という方が多いのではないでしょうか。そこで、これから3回の連載で、「電子ミラー」が私たちの生活にどのような影響を与えるのか?メリットはデメリットは?さらに、電子ミラーの安全、安心を確保するプロセスについて紹介します。その中で、我々テュフ ラインランド ジャパンが、どのように貢献していくかについてご理解いただければと思います。
電子ミラー車は近未来アニメのコックピット?
近未来を描いたアニメでは、よくコックピット(=自動車で言えば運転席)が登場します。そして、このコックピットは必ずと言ってよいほど、前方だけでなく、横や後方の景色がディスプレイに表示されています(図1)。障害物や不審な物体を見つけると、自動的に発見、拡大し、操縦者に画像と詳細な情報を提供します。このような装備によって、いち早く障害物や敵を見つけ、安全に目的地に辿りつけるのです。
未来のコックピットとはどこまで実現できるのか?
未来のコックピットではコンピュータの力を借りて、自動的に物体を検知し、拡大表示、分析結果の表示を即座に行なっています。本来、操縦者が行なっている検知、分析を機械が肩代わりしてくれるということです。これによって、監視する負荷が大幅に低減でき、長時間でも疲れにくく、結果的に安全な運転が可能になります。
これを聞いて、そのようなことはSFの世界の話で、実現はまだまだ先の話、と思われているかもしれません。しかし、私が大学の研究室の時代(今から約30年前)には、すでに特定の車両や人を検知したりする画像認識の研究が行なわれており、実際のシステムも実現できていました。とはいえ、コストと処理時間がかかりすぎるため、実用化にはいたりませんでした。
電子ミラーの登場
本格的な自動車用の電子ミラーの開発が始まったのは約3年前(2013年頃)からです。以来、研究が進み、本年度においては、さらに開発が加速しています。電子ミラーを搭載した車は、未来のコックピットと同じようになるのでしょうか?ここでまず、従来のミラーと電子ミラーを使ったシステムの違いについて説明します(下図)。
実際、この両者には大きな違いがあります。すなわち、従来のミラーでは、ミラーで反射された風景を自分の目で見ていたのに対し、電子ミラーでは、ディスプレーだけで見る状態になるということです。
ミラーと電子ミラーの違いについて
な~んだ、最近のモニター表示はとても綺麗だから、そんなこと簡単じゃない。と思われる方が多いかもしれません。しかし、一方で、最新のスマホやビデオカメラを使っていても、暗い場所だと良く見えない、太陽に照らされると画像がわかりづらくなるなどの経験をされた方がいらっしゃるのではないでしょうか?
従来のミラーと電子ミラーの間にある違い、すなわち機能的な違いが、具体的にどのようなものなのかご理解いただくため、それぞれの構造について簡単に説明します(下図)。
電子ミラーになると、カメラやモニターに投影される画像情報が運転の頼りになるため、極端に言えば、人間の眼と同じ能力を持ったカメラやモニターが必要ということになります。さらに、自動車はあらゆる場所、時間、環境で使われます。このためスマホやビデオカメラではほとんど求められていないような条件を満たすことも要求されてきます。これが自動車の電子ミラーを開発する上での大きな課題になります。
電子ミラーの実用化に向けて
では、電子ミラーは課題が大きく、世の中には出せないの?と思われた方もいらっしゃるかもしれません。そこで、次回は実用化に向けた取り組みについて説明したいと思います。
関連サービス: 車載用カメラモニターシステム試験・認可取得サービス
投稿者:
運輸・交通部 車両技術・型式認証課
シニアプロジェクトエンジニア 齊藤 智明
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窪 大嘉(くぼ ひろよし)
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