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サプライヤー監査エキスパートインタビューその2 | 監査は、従業員の人権を尊重し、組織を守るための有効なツール

Posted by TUV Rheinland Japan on 2023/06/16 16:05:44
TUV Rheinland Japan

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企業の社会的責任(CSR)を果たすためには、また企業のブランド価値を維持するためには、企業活動が社会へ与える影響に責任を持ち、自社だけでなくサプライチェーン全体の一貫した管理が必要です。


今回は、サプライヤー監査の専門家である、テュフ ラインランド ジャパン システム事業部 カスタマイズサービス部 シニアセールスエグゼクティブ 坂田 秋也にインタビューしました。坂田は、2012年にサプライヤー監査サービスを立ち上げ、これまでに数千件のサプライヤー監査をマネジメントしてきました。10年以上に渡り、それぞれの顧客に合わせた監査プログラムの開発、監査前・後を含む監査全体の管理を担っています。

 

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― ― ― 坂田さんがサプライヤー監査に関わることになったきっかけを教えてください。

もともと、ドイツの消費者保護庁の外郭団体で、国際マーケットの市場開発の仕事をしていました。ドイツから日本への輸出促進コーディネートです。その後、テュフ ラインランド ジャパンから、食品ビジネス立ち上げのタイミングで声をかけてもらいました。前職のドイツでのコネクション、テュフ ラインランド グループのネットワークを生かせるビジネスができると思い、2006年に入社しました。

ちょうど食品安全マネジメントシステム規格ISO 22000が発行された頃です。2000年代は、海外でも国内でも、企業の不祥事、食品偽装事件が多くあり、日本でも食品トレーサビリティの観点からISO 22000の導入が考えられていました。

テュフ ラインランド ジャパンでは、まずは、クラウドを活用した流通業向けの食品トレーサビリティシステムを構築し、サービスを立ち上げましたが、時期尚早だったのか市場の反応は今ひとつでした。ただ、この頃は、製品の不具合発生を源流に遡って防止する動きが活発になり、海外工場における製品検査、いわゆる生産時検査(DUPRO:During Production Inspection)や出荷前検品(PSI:Pre Shipment Inspection)の引き合いを多くいただきました。これが後のサプライヤー監査へと発展していきます。



― ― ― その出荷前検査が、どのように、現在の大きなプロジェクトへつながりましたか?

2010年に、NITE(独立行政法人製品評価技術基盤機構)と、製品安全セミナーを共催しました。そのセミナーに参加していた大手小売企業(以後、A社)の品質管理マネジャーの方より、「トルコから繊維製品の輸入を考えている。テュフ ラインランドさんは、トルコにも拠点があると聞いているが、サプライヤー選定から製品検査まで行ってもらえないか」とお声がけをいただきました。早速、その方と開発チームの方々と一緒にトルコへ飛び、専業メーカーを何社か視察しました。テュフ ラインランド グループは世界各国に拠点があり、ヨーロッパ向けの電化製品、繊維製品などの輸出国となっているトルコにも試験所を持ち、専門の検査員による認証、検査サービスを展開しています。現地の熟練検査員が製品検査を担当することで、A社向けのトルコ製タオルの出荷前検品サービス(※1)を開始しました。

※1: A社のガイドライン、テュフ ラインランドのチェックリストに沿って製品検査を実施。日本のアパレルでは、金属探知機などを使った全量検査が業界標準となっている。



― ― ― そのプロジェクトはどのような過程を経て、現在のサプライヤー監査になりましたか?

2011年の秋に、A社より、海外工場のCSR監査の話が入りました。サプライヤーの工場で、きちんと法令、人権を守りながら生産活動が行われているか、第三者目線で確認して欲しい、というものでした。

入札、役員向けのプレゼンテーションを経て、2012年春にA社の取引先工場におけるCSR監査がスタートしました。監査の目的は、A社のサプライヤー行動指針の遵守状況の確認、基準は2010年に発行されたISO 26000(組織の社会的責任に関するガイドライン)や、国連・ILO(国際労働機関)などが発行する国際条約等をベースとしたテュフ ラインランド ジャパン独自のもので、チェックリストに沿って監査を行います。

A社サプライヤーに対するCSR監査実施先は、年を追うごとに増え、開始2年後の2014年には500工場となり、現在は、毎年1,000ヵ所以上の国内外工場を対象に監査を行っています。

世界人権宣言、国連グローバルコンパクトに加え、21世紀以降ISO 26000、ビジネスと人権に関する指導原則、など多くのガイドラインが世に出てきました。ヨーロッパでは、人権、環境が企業活動においてより重要視されるようになり、A社がCSR監査を初めたのにはそのような背景もありました。

また、テュフ ラインランド ジャパンとして、工場での製品検査から、年間1,000工場以上のCSR監査へと発展させた原動力には、トルコの検査員の正確な製品検査、真摯な姿勢があったからと言えます。出荷前に不良品を除去して、日本に届いた段階で不良品がほとんど見つからなかったことは、お客様に信頼いただける検査の証となりました。



― ― ― この10年で、企業がサプライヤー監査に求めるもの変わりましたか?

企業の行動指針に、「持続可能」「人権重視」の概念がより深く入るようになりました。CSRの考え方も時代とともに変化しており、監査での重みづけ、見るべきポイントも変わってきていますので、チェックリストのブラッシュアップも不可欠です。

監査を予防安全のための有効活用ツールとして根付かせ、事故が起きてからではなく事前に打てるべき対策は何かをよく考え、実行する習慣づけを組織として備えましょう、という考え方はもちろん変わっていません。



継続は力、世界50ヵ国にまたがるグローバルネットワークが強み

― ― ― テュフ ラインランド ジャパンのサプライヤー監査の強みを教えてください。

継続して監査をすることで、我々にも気づきがあります。その気づき(経験、知見)を生かして、常に監査の質を高めていく努力しています。数千件の監査を実施していますが、我々にも改善の機会が多くあることを日々実感しています。

監査員は、年に数回社内で開催する「エクスペリエンス エクスチェンジ(経験交換会)」に参加して、実監査で得た経験や情報、課題などについて意見交換をしたり、模擬監査トレーニングをするなど、監査の質の向上に日々努めています。

世界50ヵ国にまたがるグローバルネットワークは、テュフ ラインランドの大きな強みです。監査においても、その国の法令を熟知した現地の監査員が、受査組織と現地語でコミュニケーションをして監査することで、より精度の高い監査ができるものと考えています。

サプライヤー、受査組織の方々は、監査慣れした企業から、はじめて監査を受ける企業までさまざまです。少しでも監査を有効に活用していただくための取り組みとして、実地監査のほか、監査の目的や受けることのメリットを正しく理解していただくための説明会や研修会なども開催しています。CSR監査をトータルパッケージで提供できるのは、我々テュフ ラインランド グループの大きな強みではないでしょうか。



監査は、従業員の人権を尊重し、組織を守るため

― ― ― 監査を正しく理解していただくことが重要に。

監査というと、何か悪いことを摘発して、罰して…というイメージがあるかもしれませんが、違います。監査は、従業員と組織を守るために行うものです。

自分の子どもを働かせたい会社であるか、そうあるためにはどのような改善が必要なのか、そのような視点が必要です。

受けなければいけない監査ではなく、受けて良かったと思ってもらえる監査を心がけています。質の高い監査であるか、受けて良かった監査であるか、我々監査する側も、お客様からチェックを受けて(監査されて)いるのです。



― ― ― AIの関わりについては、どう思われますか。

情報をデジタル化して、効率化を図る必要があります。AIによる分析など、これからの方向性や戦略を立てるうえでも、AIは重要なツールになるでしょう。海外の監査結果を瞬時に日本語化して報告書にするといったことにもAIが大いに役立つと考えています。これからはデジタルネイティブ世代の監査員育成も大切になってきます。



「厳格に監査する」というお客様との約束 

― ― ― 坂田さんにとって、サプライヤー監査とは。

2012年のCSR監査スタート時、前述したA社のトップマネジメントより、「バイアスをかけず、厳しい目で監査をして欲しい」といったメッセージを受け、今日までそれを守り通してきているつもりです。監査の公平性、結論の客観性の維持は信頼の礎です。これらを維持することが、サプライチェーンの中で働く従業員の方々の人権、労働安全、生活環境の改善、組織全体のパフォーマンス向上に寄与するものと信じています。

ドイツでは、2023年1月に、「サプライチェーン・デューデリジェンス法」が施行されました。日本でも2022年に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」が発行され、現在法制化が進んでいます。

監査基準は独自のものでも、もちろんOKです。小さなことでも、できることから進めていきませんか?考え方を変える必要が出てくるかもしれませんが、グローバルな視点を持ち、組織を、そして従業員の生活を守っていきましょう。

私がこれまで続けてこられた原動力は、お客様に評価いただいていることです。評価いただけているのは、2012年の「厳格に監査する」約束を守ってきたからだと思っています。

課題を与えられて、それをクリアしていく。そのうえで、自分がすべきことの目標をたてて進んできました。監査をすることが目的ではありません。受けてよかったと思ってもらえる、質の高い監査を通して、社会に貢献できていればうれしく思います。サプライヤー監査は、人々の生活の質を向上させ、健全な組織を構築していくための有効なツールです。


坂田 秋也
テュフ ラインランド ジャパン
システム事業部カスタマイズサービス部
シニアセールスエグゼクティブ

ドイツの消費者保護庁の外郭団体で、国際マーケットの市場開発の仕事に従事後、帰国。2006年テュフ ラインランド ジャパン入社。2012年にサプライヤー監査サービスを立ち上げ、これまでに数千件のサプライヤー監査をマネジメント。監査基準マネジメント、監査前・後を含む監査全体の管理を担う。


テュフ ラインランド ジャパンは、ISOなどの認証審査に加え、グローバル規模のサプライヤー監査代行サービスを提供しています。

 

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更新日 : 10/17/2023

Topics: マネジメントシステム, tuv.communication, エキスパートインタビュー