人間は長年、ロボットという存在に魅せられてきました。ロボットは知性ある振る舞いをみせ、優秀で、休みなく働くことができます。SF映画はロボットを生き生きと描いてきました。映画のシナリオは誇張されたものではありますが、ロボットは将来、私たちにとって不可欠な役割を果たすことでしょう。たいていの場合、ロボットは人間に奉仕し、人間と親密に交流しますが、その一方で、人間に対して攻撃的で、人類を征服、奴隷化したり、あるいは絶滅させる任務を持った危険なものとして描かれることもあります。一般的に、ロボットは私たちの進歩にとって有益となり、人間が機械を支配し、良いことのために使うだろうと信じられています。しかし一部の人は、いつか機械が私たちの人生を支配し、労働者から仕事を奪い、人間を打ち負かすかもしれないと感じています。したがって、社会的、倫理的、法的な問題と共に、私たちの生活の中で機械が果たす役割についての慎重な検討が必要になってくるのです。
人工知能(AI)の開発に拍車がかかる現在、機械と人間の共存についてしっかりした議論を進める必要があります。欧州議会は人工知能を「Electric Persons(電子人間)1」と位置づけ、人間を模倣した機械が近いうちに人間の知能を超えるだろうと予想しています。では、いったい誰がそれをコントロールするのでしょう?
この話はもともと、カレル・チャペックの戯曲『ロボット(R.U.R.)』(初演1921年1月25日2)で初めて語られました。「ロボット」という語は、カレルの画家の兄ジョセフが「強制労働」を意味するチェコ語から作った造語で、戯曲は人の代わりに仕事をするロボットを描いています。ロボットが働くようになると、人間は退化し何もしなくなりました。ロボットたちは社会に無用な存在となった人間たちを駆除しはじめます。そして最後に一人残されたのは、まだ働き続けていた男でした。彼はロボットの製造に携わる労働者で、この先もロボットを作り出すことができるかもしれなかったからです。しかし、ロボット製造の秘伝書はすでに開発者によって破棄されていました。したがってこの男にもロボットを新たに生み出すことはできなかったのです。戯曲は、最終幕で愛し合う二体のロボットを登場させ、新たな生命と文明の誕生を暗示して終わります。3,4
カレルの描いた悲劇から人間を守るため、アイザック・アシモフは1942年に書いた短編『堂々めぐり(Runaround)』のなかで次のような「ロボット工学三原則」を示しています。5
第一条
ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条
ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条
ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。
この原則が守られることで、カレルの描いたロボットの悲劇は防ぐことができるかもしれません。しかし一方で、倫理性や安全性を含め、人間がどのようなかたちで有意義に「Electric Persons(電子人間)」と関わっていけるのかについては、今後まだ多くの課題が残されています。
欧州議会は「ロボットに関する民法規定」を審議しています。法律問題委員会の副議長を務めるマディ・デルボー議員が2016年5月31日に提出した草案には、EUが機械のオートメーションや人工知能の普及に対応するためのいくつかの提案を挙げています。
この草案では、人間生活に関わる人工知能の法規上、社会上、倫理上の課題が指摘され、将来的に雇用や社会保障や税制にも影響を与えると懸念されています。富の分配や社会的地位の格差も拡大するとされています。さらに草案はこうも述べています。「今後数十年の間に人工知能が人間の知性を上回り、対策を講じないならば、人間が自身で創造したものを支配する力、運命を自身で選ぶ自由、種の存続を確保する力に問題が生じる恐れがある」。
さらに、EU全域に存在するElectric Persons(電子人間)やロボットを登録制にし、それをEUが管理する仕組みなどの提案が示されています。またそこでは、ロボットが引き起こした損害をロボット自身が補償する法律や、安全性、プライバシー、倫理性、尊厳、自主性、データの所有権などに重点を置きながら、ロボットの設計、開発、人間とのコミュニケーションについて基本線を定める倫理規定などについても意見が述べられています。また、社会保障費について、人間の労働者の減少分をロボットが補填し、損害賠償保険に強制加入するような案も提示されています。
今日、工場ではかつてない数の産業用ロボットが稼働し、介護や外科手術の現場でもロボットが活躍しています。こうしたことから失業や富の格差、社会問題への懸念も高まっています。こうした流れを新たな産業革命と呼ぶ人もいますが、今後ロボットが社会から消えることは考えられないため、人間は共存の道を探るべきでしょう。EU以外の国でも同様の審議が進められています。人とロボットの最良の関係を見つける上でそうした議論は欠かせません。この分野の専門家は、安全性、プライバシー、倫理性、尊厳、自主性、データの所有権を監視していく必要があるでしょう。テュフ ラインランドもまた、そこで大きな役割を果たしていきます。
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[1] 欧州議会 草案「ロボットに関する民法規定」
DRAFT REPORT - with recommendations to the Commission on Civil Law Rules on Robotics (2015/2103(INL)) - http://www.europarl.europa.eu/sides/getDoc.do?pubRef=-//EP//NONSGML%2BCOMPARL%2BPE-582.443%2B01%2BDOC%2BPDF%2BV0//EN
[2] ウィキペディア
https://en.wikipedia.org/wiki/R.U.R.
[3] The Curious Origin of the Word ‘Robot’ by interestingliterature https://interestingliterature.com/2016/03/14/the-curious-origin-of-the-word-robot/
[4] http://www.todayifoundout.com/index.php/2012/05/where-does-the-word-robot-come-from/
[5] ウィキペディア
https://en.wikipedia.org/wiki/Three_Laws_of_Robotics