
既報のとおり、ISO 9001が約10年ぶりにISO 9001:2026に改訂されることになりました。現行の2015年版と比較して大枠の変更はないものの、品質マネジメントの「実効性」「エビデンス」「継続改善」をより重視する方向へ進化しています。
今回の改訂の背景には、デジタル化、AIの普及、サプライチェーンの複雑化、サステナビリティへの意識など、この10年間で組織を取り巻く環境が大きく変わったことがあります。ISO 9001:2026は、そうした変化に対応できる品質マネジメントを求めています。
「文書の多さ」ではなく「実行と成果の確実性」を重視する、時代に合わせた改訂と言えるでしょう。要求事項の大枠は変わらないものの、文言の整理と共通化によって、より明確で、実践的なマネジメントシステムの構築、運用が期待されています。
全体的な変更のポイント
1. Annex SLからAnnex Lへ
ISOマネジメントシステム全体の共通構造(Annex L)に更新され、ISO 14001、45001、27001などとの整合性がさらに高まりました。文体や構成が共通化され、複数システムの統合(IMS)がしやすくなります。
2. “retain”から”available as evidence”へ
「文書を保持する」という表現が「証拠として利用できるようにする」に変更されました。つまり、文書は紙や電子データなどの形式は問わず、実行している証拠を示せればOKという考え方です。これにより、過剰な文書管理ではなく実効性重視の運用が求められます。
3. 外部環境・変化への対応を強化
“changes affecting the organization”(組織に影響する変化)という表現が随所に追加されました。DX(デジタルトランスフォーメーション)や外部委託、AI活用など、変化に柔軟に対応するためのリスク・機会管理が求められています。
4.「顧客満足」から「顧客の声」へ
9.1.2では、“customer satisfaction”(顧客満足)だけでなく、 “customer feedback” や “complaints”、さらに “social media” まで含んだ表現に拡張されています。つまり、SNSやレビュー、苦情も重要な情報源と位置づけられています。
5.改善関連の整理
2015年版の10.3 “Continual improvement” (継続的改善)は10.1に統合され、章構成がシンプルになりました。「継続的改善」は引き続き重要ですが、「成果を上げるための改善」=実行と検証の循環がより明確になりました。
各章ごとの主な改訂ポイント
4章 組織の状況
内外部課題(internal/external issues)と利害関係者のニーズを特定するだけでなく、「モニタリング・見直し」することが求められます。
5章 リーダーシップ
品質方針と組織の戦略との「整合性」を求める表現が強まりました。単なる形式的リーダーではなく、「方向性を示し行動で支えるリーダーシップ」が求められます。
6章 計画
リスクおよび機会への対応を “update and review” することが明示されました。また、変更管理 “management of change” の概念が随所に反映されています。計画を一度立てて終わりではなく、状況変化に応じて柔軟に見直す体制が求められます。
7章 支援
文書化要求がシンプル化され、“documented information shall be available as evidence”に統一されています。また力量(competence)では、デジタルスキルへの言及が見られます。今後は人材教育にも、デジタル活用力やAI理解が含まれることが想定されます。
8章 運用
基本的な構成は変わりませんが、製品・サービス提供におけるエビデンス管理の表現が強化されています。
8.5.3~8.6では”documented information as evidence”と明示され、記録保持の明確化が図られています。
8.7不適合アウトプット では文言整理のみですが、整合性が向上しました。
9章 パフォーマンス評価
9.1.1~9.1.3において、“retain” が “available as evidence”に変更されています。つまり、「記録を保持する」ではなく「結果を証明できる状態にする」ことが求められています。また、「分析と評価(analysis and evaluation)」の表現が強化され、単なるデータ収集ではなく、洞察に基づく意思決定が重視されています。
9.1.2 顧客満足では、苦情やソーシャルメディアなど、新たな顧客情報源が明記されました。顧客との接点が多様化する時代に対応した修正です。
9.2 内部監査では、”objectives” が明文化され、監査目的を明確にする必要があります。監査プログラムの頻度・方法・責任などもより体系的に整理されています。
9.3 マネジメントレビューでは、入力項目の順序が整理され、”changes in needs and expectations of interested parties” が追加されています。外部環境の変化や顧客期待の変化を、経営層が正式にレビューすることが求められます。
10章 改善
10.1では、2015年版の10.3が統合され、章タイトルが “Continual Improvement” に変更され、内容が整理されています。継続的改善は引き続き要求されつつ、分析・レビュー結果を基にした改善の実行が明確に求められています。
10.2 不適合と是正処置では、苦情(complaints)が不適合の発生源として正式に明記されました。また、“retain”が“available as evidence”に変更され、証跡としての柔軟な提示方法が認められます。
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更新日 : 10/22/2025

