開発が進む自動運転システムを支える技術のひとつ、車載用カメラモニターシステム(CMS)は、従来のドアミラーやバックミラーに代わりカメラ(電子ミラー)を装着することで、モニターで車両周辺の状況を把握する技術です。
テュフ ラインランド ジャパンは、2016年6月に発効した国連規則UN-R46(自動車の間接視界に関する協定規則)の04シリーズ改正に対応し、第三者認証機関として日本で初めて、2016年7月に車載用CMSの試験・認可取得サービスを開始しました。また、2019年1月からは、トラック・バス向けにも同サービスを提供しています。
今回は、2016年に、車載用CMSラボ、CMS認可取得サービス立ち上げに従事し、現在も電動車両・電気自動車、ADAS(先進運転支援システム)、自動運転などに関する試験・認証サービスを開発している、テュフ ラインランド ジャパン 運輸交通部 自動車部品担当 セールスエグゼクティブ 窪 大嘉(くぼ ひろよし)に、車載用CMSの特徴、認可取得などについてインタビューしました。
― ― ― まずは、車載用カメラモニターシステム(CMS)について教えてください。
窪 CMSは、既存のミラーを、電子的なカメラとモニターに置き換えることにより、ミラーレスを実現するものです。死角の軽減による事故の減少、自動車の空力抵抗減少による燃費改善、またドアミラーの小型化によるデザインの革新など、自動車メーカーや電気自動車メーカーにとって、大きな意味を持つシステムです。
現在、先行車をセンサーやカメラで認識して、自動ブレーキをかけたり、ハンドルの自動操作により車線変更をするなど、自動運転技術の開発が活発です。CMSは、これらの技術の基礎となる電子デバイスとモニターになるため、今後市場の大きな発展が見込まれています。
― ― ― 2016年の、国連規則UN-R46の04シリーズ改正には、どのような背景がありますか。
窪 光学ミラー(従来の鏡)は、映る範囲が限定されており、車外に設置されるため汚れや水滴などで視界が妨げられることがあります。CMSはこれらの弊害をクリアできる画期的な手法として、法整備化を望む声が多くありましたが、光学ミラーと人間の目をどのように定量化し、規格化するのかが課題でした。
2016年の国連規則UN-R46の04シリーズ改正により、自動車に装備されているミラーを、CMSに完全に置き換えることができるようになり、完全ミラーレス車の製造が可能となりました。それまでも、欧州では自動車のフロント用など限定的にCMSが認められていましたが、日本ではカメラのみの採用は認められていませんでした。しかし、日本でも国際規則であるUN-R46を採用※することになり、従来のミラーの代わりに、CMSを装備することができるようになりました(※日本では、2019年6月18日以降の新型車、2021年6月18日以降の継続生産車に対して、UNR46-04を適用)。
― ― ― 現在、CMSは、日本で、世界で、どのくらい導入されていますか。また今後どのような推移をたどると考えていますか。
窪 現在、ミラーレス車の導入はまだ限定的です。理由のひとつとしては、既存のミラー車とミラーレス車が同一車種の中で存在し、CMSによるデザインやシステムの優位性が出しずらいことが考えられます。CMSの優位性を最大限に出すためには、車両自体のコンセプトやデザイン、機能を見直す必要があります。
今後、ミラーレス車専用モデルが開発されることにより、よりCMSのメリットを全面に出した車両が導入されると考えています。
― ― ― CMS認可取得のための試験には、どのような項目がありますか。また、通常、試験期間、認可取得までの期間はどのくらいでしょうか。
窪 CMSのUN-R46に関わる評価項目は、人間の視覚機能を代替する機能や、表示スピードに関する試験など、約40項目です。認可取得までの期間は、システムの概要やバリエーションによりますので、お客様によってさまざまです。初めてCMSの認可を取得するお客様の場合、またこれまで認可取得をされたお客様でも、新規モデルで取得される場合は、平均すると半年~1年程度となります(開発受託試験含む)。
テュフ ラインランド 関西テクノロジーセンターのCMSラボ(KTAC、大阪)
― ― ― 認可取得に際して、お客様からどのようなお問い合わせを受けますか。注意点なども教えてください。
窪 お問い合わせとして多くいただくのは、法規の概要・試験の概要・期間・費用です。また、最近はトラック、バス向けのお問い合わせも多くなっています。
多くのお客様が、初回の適合性確認試験で適合となるケースはほぼない状況で、複数回にわたって開発品の試験を実施し、修正・変更をされています。カメラだけ、モニターだけの性能が良くても十分な結果にはなりませんので、両方のセッティングが重要だと感じています。現在の技術を持っても、光学ミラーと人間の目を、電子で再現することの難しさがあります。
初めてCMSの認可を取得するお客様からは、R46とは何か、どのような試験をすればよいのか、自分たちで事前評価はできるのか、事前評価にはどのような機材を準備すればよいのか、などのご質問をいただきます。技術ミーティングを行い、スタート地点での疑問をなくしていただけるようご説明します。製品・お客様に合わせたプランをご提案していますので、お気軽にご相談ください。
― ― ― テュフ ラインランド ジャパンの車載用CMS試験・認可取得サービスの強みを教えてください。
窪 テュフ ラインランド ジャパンは国内で唯一、CMSの試験が実施できる第三者認証機関です。製品開発前のプランニング段階から、市場導入後の品質管理までを一貫してサポートしています。提供している主なサービスは下記のとおりです。
- 法規の要求事項・試験方法の読み解き、解説
- お客様の仕様決定、検証のため、試作品で試験を実施。法規適合試験の結果を提供。お客様からいただく情報に基づき、試作品を試験するための治具を3Dプリンターで作成するなど、フレキシブルに対応
- 認可取得のための認可試験実施
- 仕様変更などによる、変更申請、必要に応じた追加試験の実施
- 生産性適合性確認(CoP)の試験実施
CMSの認可取得でテュフ ラインランド ジャパンをご利用いただいているほとんどのお客様に、製品のプランニング、開発試験段階から、製品上市後のCoP試験(少なくても年1回実施)まで、我々のサービスを活用いただいています。先ほども述べたとおり、一度の試験ですべての項目が適合となることは難しく、複数回試験を実施して、改良・修正をされているのが実情ですが、試験立ち合いにより、現象を実際に確認いただくことが可能です。また、受託試験から認証試験まで、一貫したデータ取得・管理を行い、データの変遷もご確認いただけます。
また、各国で異なる法規の調査や申請についても、グローバルネットワークを活用してサポートできることがテュフ ラインランドの強みです。
CMSの開発設計プロセスと、テュフ ラインランド ジャパンが提供するサービス
― ―― 最後に、窪さんは、電気自動車、自動運転の発展に、どのように関わっていきたいと考えていますか。
窪 私はテュフ ラインランド ジャパンに入社して約10年間、電気自動車・電動車両の案件に関わってきました。CMSについては約5年間になります。特に車両に関わる新規技術プロジェクトを担当しました。サービス立ち上げの段階から関わり、ゼロからのスタートということも多く、苦労も多かったですが、時代の最先端の技術に関わり、環境や安全に貢献できることを嬉しく思っています。今後も世の中のためになる仕事をしていきたいと思っています。
テュフ ラインランドには、150年近い安全に関する歴史と経験があり、特に車と電気部品については長い歴史を持っています。その経験を生かして、新しい製品の問い合わせがあった場合でも、既存の試験方法や試験機器を活用・応用してお客様の要望されるサービスを提供してきました。また、その後、費用・スピード・精度を向上させるために、新たな試験方法や機器を協力会社と共に作り上げてきました。
車載用CMSについては、我々は元々医療系のモニターやカメラといった製品の測定機器を持ち、経験もありましたので、当初はそれらを応用して試験を始めました。しかし、当時は専用のラボもなく、システムや試験方法は、車両のCMSに特化した測定機ではなかったため試験に非常に時間がかかりました。今後CMSの試験の需要が多くなることを予測し、専用のラボを設立し、測定機メーカーと共同で測定器を開発することで、大幅に試験時間を短縮することに成功しました。世の中に無い試験機器や治具などは、オリジナルで製作してきました。今後も新しいシステムやお客様の要望に合わせて、フレキシブルな対応をしていきたいと考えています。
窪 大嘉(くぼ ひろよし)
テュフ ラインランド ジャパン ジャパン 運輸交通部 自動車部品担当 セールスエグゼクティブ
2011年より、電気自動車・電動車両関連の試験、認証・認可取得業務に携わる。2016年には、CMSラボ・CMS認可取得サービス立ち上げに従事。現在も電気自動車、電動車両をはじめとしたE-Mobility全般、ADAS(先進運転支援システム)、自動運転などに関する試験・認証サービスを担当。
<参考リンク – テュフ ラインランド ジャパン ウェブサイト>
車載用カメラモニターシステム試験・認可サービス
お問い合わせ:カスタマーサービス(TEL: 045-470-1850 E-Mail: info@jpn.tuv.com)
更新日 : 3/30/2021